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相続の基礎知識をわかりやすく解説!~戸籍調査と法定相続人の特定~

被相続人の作成した遺言書がない場合、遺された財産について「誰が」「何を」「どれだけ」承継するのかを決めなければなりませんが、その前にそもそも「誰が」その権利を有するのか、すなわち法定相続人を特定する作業が必要になります。
今回は、法定相続人の調査や戸籍の収集方法について解説します。

法定相続人の調査

法定相続人の調査とは、亡くなった方(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本をすべて収集し、それらを読み解くことで、誰が相続する権利を有する法定相続人となるのかを明らかにしていく作業です。

被相続人にとって誰が法定相続人となるのかについては家族が把握しているのに、なぜわざわざ古い戸籍までさかのぼって収集して調査する必要があるのだろう?と疑問に思われるかもしれません。
しかし、古い戸籍までさかのぼって読み解いていくと、被相続人の生まれてから亡くなるまでの経緯がすべて記されていて、ご家族が知らなかった情報が明らかになることもあります。

遺された財産を「誰が」「何を」「どれだけ」承継するのかを決める遺産分割協議は、法定相続人全員で話し合い、合意しなければ無効になってしまいます。ですので、遺産分割協議に参加する資格がある者、すなわち法定相続人を調査し正確に特定することは最も重要な作業といえます。
そして、遺言書によらずに不動産や預貯金の相続手続きをする際には必ず、被相続人の法定相続人を特定するための戸籍謄本等の提出を求められます。したがって、戸籍の収集・調査は避けては通れない作業になります。

戸籍とは

戸籍とは、人が生まれてから亡くなるまでの身分関係や本籍地などが記載されている書類のことで、日本国籍のある人は戸籍に記録されており、証明書を取得することができます。
戸籍には、父母・兄弟姉妹・配偶者・子・養子などについて記載があるほか、婚姻・離婚や養子縁組・離縁、いつ亡くなったかについても確認できるようになっています。

証明書(戸籍謄本、戸籍抄本など)は、本籍地の市町村役場へ請求し手数料を支払って交付してもらうことができます。
役場へ直接出向いて窓口で請求するほか、郵送でも請求できますので、本籍地が遠方でもわざわざ窓口に出向くことなく取得することができます。
ただし、郵送での請求は返信用封筒の同封や手数料の支払い方法など、窓口での交付とは違った手続きが必要になりますので、本籍地の市町村役場へ問い合わせるか、ホームページを確認して行ってください。

戸籍謄本と戸籍抄本

戸籍には、戸籍謄本(こせきとうほん)と戸籍抄本(こせきしょうほん)があり、役場に請求する際にはどちらが必要かを問われます。その違いとは、
・戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)
 →その戸籍に記録されている全員について記載されているもの
・戸籍抄本(戸籍の個人事項証明書)
 →その戸籍に記録されている指定した個人について抜粋し記載されているもの

法定相続人の調査には、身分関係(親子や夫婦など)が記載されている「戸籍謄本」を読み解くことが必要になりますので、請求するのは戸籍謄本になります。
相続手続きのなかには戸籍抄本でもかまわない場合もありますが、どちらが必要か不明な場合は戸籍謄本を取得しておくことをおすすめします。

戸籍の種類

戸籍とひとくくりにいっても、細かく分けると以下の3種類があります。
◆戸籍(現在の戸籍)
 →最新の戸籍
◆除籍
 →戸籍に記録されている者が死亡、婚姻、離婚などにより、
  その戸籍から外されることを「除籍される」といいますが、
  それによって記録されている者が誰もいなくなったり、
  本籍地を移転(転籍)することによって閉鎖された戸籍自体を
  「除籍」といいます。
◆改製原戸籍
 →法改正により戸籍が改製される前の古い様式の戸籍
  
注意すべき点は、改製後の戸籍には改製前に死亡や婚姻によって除籍された人や養子縁組した事実などが記載されないことです。つまり、現在の戸籍謄本だけではすべての身分関係を明らかにすることができません。
戸籍を請求する際に、どの種類のものが必要かを問われますが、基本的には「誰の」「どの期間の」ものが必要なのか、何に使用するのか(提出先)などを伝えればそれに合わせた戸籍を交付してくれます。

ただし、請求できるのはその市町村に本籍地がある期間のものに限られますので、婚姻や転籍によって本籍地が変わっている場合には、変わった後もしくは変わる前の本籍地の市町村役場へ別途請求しなければなりません。

戸籍の附票

戸籍の附票とは、本籍地の市町村役場に戸籍とセットで管理されている証明書のことです。
その戸籍に在籍している人の住所変更の履歴が記録されており、在籍者の住民票がいつ・どこにあったのかを確認することができます。

戸籍には住所が記載されていませんので、法定相続人の住所を確認するには戸籍の附票を取得する必要があります。
また、不動産の登記などで住所変更の履歴を証明する必要がある場合、住民票には前住所(1つ前の住所)までしか記載されませんので、住所を転々とされている場合には戸籍の附票によって証明することができます。

戸籍の附票は、戸籍と同様に本籍地の市町村役場に請求すれば交付してもらえますが、記録されるのはその本籍地に在籍していた期間のみです。また、保存期間が経過すると破棄されてしまい交付してもらえない場合があります。

戸籍の集め方

相続手続きに必要な戸籍の収集方法としては、まず被相続人の本籍地の市町村役場へ「生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」の交付を請求します。本籍地がずっと変わりなければすべて取得することができますが、婚姻、養子縁組、転籍などにより従前の戸籍が取得できない場合は、従前の本籍地の市町村役場へ別途請求しなければなりません。

戸籍謄本等の交付を請求するには、本籍地と筆頭者を指定する必要があります。本籍地・筆頭者がわからない場合は、住民票を「本籍地の記載入り」で取得すると確認することができます。
取得した戸籍謄本の内容を確認し、足らずがあれば別途請求するということを繰り返して、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本をすべて漏れなく取得します。

戸籍を請求できる人

原則として、戸籍の交付を請求することができるのは、本人の配偶者や直系尊属(父母・祖父母)、直系卑属(子や孫)です。
それ以外の人は、委任状や正当な理由がある場合に限り交付請求が可能です。

相続手続きに必要な戸籍については、相続人であれば被相続人および他の相続人の戸籍を請求することができますが、親族関係を証明する戸籍等の提示を求められることもあります。

また、司法書士は、受任している事件または事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、依頼者に代わって戸籍等を請求(職務上請求)することができます。

戸籍調査と法定相続人の特定

被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を漏れなく収集し読み解き、法律に定められた相続順位にしたがって、誰が法定相続人に当たるのかを調査します。
その際に「代襲相続(※1)」や「数次相続(※2)」が発生している場合には、被相続人だけでなく、亡くなった人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本も収集する必要があります。相続関係に応じて戸籍を収集する範囲が変わってきますので注意が必要です。
最終的に、法定相続人全員の現在の戸籍を取得し法定相続人を特定します。

特定した法定相続人に漏れがあると、新たな法定相続人が発覚した時点で遺産分割協議などの相続の手続きがやり直しになってしまいますので、慎重に行わなければいけません。

(※1)本来法定相続人となるべき被相続人の子供(もしくは兄弟姉妹)が被相続人よりも先に亡くなっている場合、孫(もしくは甥姪)が法定相続人になること。
(※2)被相続人が亡くなった後、遺産分割協議をしないうちに法定相続人が亡くなってしまい、次の相続が開始してしまうこと。

法定相続人特定後の注意点

法定相続人を特定したら、法定相続人全員で行う遺産分割協議へすすみたいところですが、調査し特定した法定相続人の中に、「未成年の子」「行方不明の人」「生死不明の人」がいる場合は、それぞれ家庭裁判所へ申し立てを行い、特別代理人の選任などの手続きが必要になります。
家庭裁判所への申立ての内容によっては、かなりの時間を要するものもありますので、期限がある相続手続きには注意が必要です。
また、「相続欠格」「相続廃除」にあたる人がいる場合には、相続人としての権利を剥奪され、相続人にはなれません。

相続関係説明図の作成

戸籍謄本等を収集し、相続人の調査を行ったら、特定した法定相続人がひと目でわかる相続関係説明図を作成します。
相続関係説明図は、被相続人を中心にすべての法定相続人とのつながりを漏れなくわかりやすく図に示します。被相続人は氏名・本籍・最後の住所・生年月日・死亡日などを記載し、法定相続人は氏名・続柄・生年月日・住所などを記載します。

不動産の名義変更(相続登記)をする際には、登記所(法務局)への申請書類として相続関係説明図を添付します。これにより、提出した戸籍謄本等を返却してもらうことができます。

また、平成29年5月29日より、法務局において「法定相続情報証明制度」が始まりました。
法務局へ戸籍謄本等一式とともに相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すると、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してもらうことができます。この「法定相続情報一覧図の写し」は、戸籍謄本等一式の代わりになるものとして各種相続手続きで利用することができます。

まとめ

ここまで解説してきたように、法定相続人の調査は、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等をすべて収集し読み解くことで、漏れなく法定相続人を特定し、法定相続人全員で遺産分割協議を行うための必要な下準備です。

しかし、古い戸籍は手書きであることに加え毛筆で書かれていることも多く、慣れていないと内容を正確に読み解くことは困難です。
そのうえ、一つの本籍地ですべての戸籍謄本等が揃うことはあまりなく、請求先が複数になることもあり、戸籍謄本等の収集から法定相続人を特定するにはどうしても時間と労力がかかってしまいます。

また、法定相続人の中に未成年者や行方不明者などが含まれている場合、手続きや相続関係が複雑になることも考えられます。

戸籍収集や法定相続人の調査・特定、そのほか相続手続きでお困りのことがございましたら、まずはお気軽に当事務所までご相談ください。

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