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パートナーシップ宣誓制度と法的手段の活用

当事務所がある岡山市では、自己の意思と責任により多様な生き方が選択できる社会の実現を目指し、その取組の一環として、性的マイノリティの方を対象としたパートナーシップ宣誓制度を令和2年7月から導入しています。
「性的マイノリティ」とは、性自認(こころの性・自分が認識している性)や性的志向(好きになる性)など性のあり方が多数派に比べると少数派の方々の総称で、近年、この制度を導入する自治体が増えています。

多様にある性

性のあり方はとても多様で、からだの性別だけでなく、性自認(こころの性)、性的志向(好きになる性)、表現する性(服装・しぐさ・言葉づかい、他)などの要素があり、その組み合わせによっていくつものあり方が存在します。
よく耳にする「LGBT」という言葉は、性的マイノリティをあらわす総称のひとつで、以下の4つの頭文字をとったものです。
・Lesbian(レズビアン)
 …女性の同性愛者(性自認が女性・好きになる性も女性)
・Gay(ゲイ)
 …男性の同性愛者(性自認が男性・好きになる性も男性)
・Bisexual(バイセクシャル)
 …両性愛者(好きになる性が男性女性の両方)
・Transgender(トランスジェンダー)
 …「からだの性」と「こころの性」が一致しないため、
  「からだの性」に違和感を持つ人
このほかにも、自身の性自認や性的志向が決められない、はっきりしたくない、わからないなど、様々な性を持った人たちがいることを理解し、認め合うことが大切です。

また、性的志向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)、性表現(Gender Expression)の頭文字をとって、「SOGI/SOGIE」という言葉も一般的になってきました。
これは、性的マイノリティの方に限らず、誰にでもある性の属性をあらわす総称であり、すべての人に関わる言葉です。

パートナーシップ宣誓制度

パートナーシップ宣誓制度とは、一方または双方が性的マイノリティである二人が、お互いを人生のパートナーとして日常生活において相互に協力しあうことを約束したパートナーシップ関係であることを、パートナーシップ宣誓書により宣誓し、自治体がその宣誓を証明する制度です。
制度を導入することにより、性の多様性についての理解を広め、誰もが自分らしく生きることのできる社会となることが期待できると考えられています。

また、この制度を利用する当事者は、公的サービスや民間企業のサービス、勤務先の福利厚生を法律上の婚姻(以下法律婚)をした夫婦と同様に受けることができる可能性があります。
一例としては、
・携帯会社の家族割サービスの対象になることができる
・生命保険の受取人になることができる
・金融機関でのペアローンを組むことができる
・勤務先の社内規定で家族扱いしてもらうことができる
など、自治体や企業によって内容は異なりますが、対象となるサービスの範囲は広がっています。
ただし、法律婚と異なり、婚姻による家族関係の形成や相続、税金の控除などについて、法的な効力を生じさせるものではないので注意が必要です。

法律婚との違い

パートナーシップ宣誓制度によって、婚姻に相当する関係であると自治体に認められることで生活しやすくなる側面がありますが、法律婚とは別物なので、扶養義務や相続権などの法律上の効果は発生しません。

したがって、例えば次のような場合に、配偶者としての権利を得ることができず生活に支障が出てしまう可能性があります。
1)判断能力が衰えたとき
パートナーが認知症などにより判断能力が不十分となった場合、財産管理や契約を代理するための成年後見制度利用の申立てをする際に申立人となることができません。
2)医療行為が必要なとき
パートナーが入院したり意識不明の状態に陥ったりした時に、医療機関が家族だと認めてくれなければ、医師からの話を聞いたり医療行為に同意することができません。
3)相続が発生したとき
パートナーが亡くなった際に、法定相続人となることができません。

このようにパートナーシップ宣誓制度では補えない部分については、法的手段の活用を検討することをおすすめします。

法的手段の活用

現在の日本の法律では同性間の婚姻は認められていませんので、何もしないままでは法律上の家族ではなく、パートナーにもしものことが起こったときに無関係な立場として扱われてしまうことが多くあります。
パートナーシップ宣誓制度を利用するカップルが、共に生活をしていく上で法律婚との取扱いの違いによって起こる困りごとは、下記のような法的手段を組み合わせて活用することで解消することができる場合があります。
1.任意後見契約
2.パートナーシップ契約書
3.遺言書

1.任意後見契約

認知症などで判断能力が衰えたときに利用される「成年後見制度」ですが、その種類は法定後見と任意後見の2つに分かれます。
「法定後見」とは、判断能力が衰えてしまってから、家庭裁判所に申立てを行い、後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)を選任してもらう制度です。
この場合、申立人は親族でなければならないほか、家庭裁判所が本人の状態を勘案して後見人等の選任を行うので、必ずしもパートナーが後見人等になれるとは限りません。

一方、「任意後見」とは、認知症などで判断能力が衰えたときに備えて(判断能力があるうちに)、後見人(任意後見人)になってほしい相手を自らで決めて契約しておきます。
公正証書で作成する必要がありますが、代理権の範囲や後見人の報酬などの内容を当事者同士で柔軟に決めることができ、判断能力が衰えた際にはあらかじめ決めておいた内容に沿って任意後見人が財産管理や契約の代理を行います。
この任意後見契約をパートナー同士でかわすことで、お互いのもしもの時に備えることができます。

2.パートナーシップ契約書

パートナーシップ契約書とは、同性のカップルが共同生活をするうえでの約束事を書面にし、法律婚に準じた関係を築くための契約書です。
その内容は基本的には自由に決めることが可能で、生活費や家事の分担方法、財産の管理方法、協力や扶養の義務、違反した時の取り決め、慰謝料や財産分与の請求権などを契約内容に入れることができます。

ただしあくまでも当人同士の間の契約になるので、この契約に基づいて第三者に対して契約の効果を強制したり損害賠償を求めたりすることはできません。
一方で、契約の内容に医療行為に関する同意や面会する権利を入れておくことで、医療機関に自分の意思を表示することができ、パートナーが医療行為についての説明を受けることができたり手術への同意や面会ができる可能性があります。
また、死後事務に関する内容を入れておくことで、亡くなった後の葬儀などの執行や、各種精算、保険金などの請求、遺品の整理などをパートナーに任せることができます。

お互いの署名と押印があれば契約書として有効ですが、証明書として活用することも考え、公正証書にしておくことをおすすめします。

3.遺言書

パートナーが亡くなり相続が発生したとき、対策をなにもしていなければ、どんなに長く一緒に生活をしていたとしても法律上の配偶者ではないので法定相続人となることができず、相続する権利がありません。ですので、パートナーの預貯金の引出しができなくなるほか、自宅の名義がパートナーである場合には相続人に退去を求められるなど、リスクが生じる可能性があります。

そこで事前に行うべき対策は、遺言書の作成です。
遺言書を作成しておけば、相続人ではないパートナーに遺産を引き継ぐことが可能になります。
ただし、作成する際にはパートナーの親族(相続人)の遺留分に注意して作成することが必要になりますし、遺言書の有効性の観点からも、専門家を交えて公正証書遺言にしておくことをおすすめします。

ご相談はお気軽にどうぞ

近年、さまざまな自治体が導入しているパートナーシップ宣誓制度。
一方または双方が性的マイノリティである二人が宣誓し、自治体がその関係を証明することによって、法律婚をした夫婦と同様に公的サービスや民間企業のサービス、勤務先の福利厚生が受けられる可能性がありますが、法律婚のような法律上の権利義務が当然に生じるものではありません。
しかし、パートナーシップ宣誓制度と法的手段の活用を組み合わせることによって、お互いにもしものことがあったときの法的な備えをすることができます。

契約書や公正証書の作成などについてご不明な点や不安なことがある方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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